2024-02

2010・6・15(火)旅行日記第10日 R・シュトラウス「カプリッチョ」

  ウィーン国立歌劇場  7時30分

 「言葉が第一か、音楽が第一か」という昔からのオペラ論議と、美人の伯爵令嬢をめぐっての詩人と作曲家との争いを重ね合わせたオペラ。

 昨秋、日生劇場で上演されたジョエル・ローウェルスによる第2次世界大戦中のパリに舞台を設定された読み替え演出を、私はいたく気に入っているのだが、2008年にプレミエされたこのマルコ・アルトゥーロ・マレッリ演出・装置・照明によるプロダクションではもちろんそのようなことはせず、きわめて優雅典麗な舞台に仕立て上げた。

 舞台美術は、大きな窓のある多数のパネルをさまざまに回転させ移動させ、時にはセリも使って部屋の光景を変えて行く手法で、その窓にきらきらと反射する灯りが目映く美しい。登場人物たちもクラシックな衣装で、演技も含めてト書に忠実な舞台づくりである。まさにこれは、「オリジナルの良さ」なるものを再現したものと言えるだろう。
 ただし、それは充分に壮麗であることはいうまでもないが、全曲休憩なし2時間半を統一する光景としては、些か単調に感じられることは否めまい。

 オペラの冒頭は、上手側と下手側にそれぞれ作曲家フラマン(ミヒャエル・シャーデ)と詩人オリヴィエ(アドリアン・エレート)が小机の前に座り、著作に耽っている光景で始まる。
 そして全曲幕切れでも、伯爵令嬢マドレーヌ(ルネ・フレミング)が退場したあと、前述の2人が同じ位置に戻って座り、降りた紗幕の向うでまずフラマンが、次いでオリヴィエが電気スタンドの灯りを消す、という段取りになる。
 ここで、短い和音に合わせてフラマンが灯りを消したのはいいが、オリヴィエは、最後の和音よりちょっと早く消した。わざとずらせたのかもしれないけれども、やはり最後の音にタイミングを合わせて消した方が、実にしゃれたエンディングになっただろうに――などと、異邦人は妙なことにこだわる。

 このライバル・コンビ、シャーデはなかなかエネルギッシュに舞台を飛び回ったが、エレートの方は、今日は不思議に冴えない。バイロイトのベックメッサーで魅せた同じエレートとは別人のごとき演技であった。

 さて、伯爵令嬢はおなじみ、METの名花ルネ・フレミングだが、――これがどうも違和感を抑えきれない。
 強くて細かいヴィブラートを利かせ、強弱やニュアンスに変化を付け過ぎる彼女独特の歌い方が、他の歌手たちと比較して声がまっすぐこちらに響いて来ない、という結果を生んでしまうのだ。往年のシュワルツコップもそういう歌い方をすることがあったが、彼女の場合には発音も発声も遥かに明晰だった。
 それに、フレミングの場合、高音域にかなり無理が出て来ているのではないか? 最後のモノローグでは、それが目立って感じられた(その代わり、瞬時だが聞かせた低音域は魅力的だった)。
 せっかくのヒロインのはずが、むしろクレーロンを歌ったアンゲリカ・キルヒシュラーガーの、さり気ない中にもパンチの利いた歌唱と演技にすっかり食われてしまったと言って過言ではあるまい。しかし、フレミングには熱狂的なファンがいるらしく、拍手と歓声は圧倒的なものがあった。

 歌手陣では他に、伯爵にモルテン・フランク・ラルセン、ラ・ローシュにヴォルフガング・バンクルら。

 指揮は、最近好調のペーター・シュナイダー――だったが、この人はやはりウィーンよりもドレスデンでの方が相性がいいのだろうか? 
 ウィーン国立歌劇場のオーケストラが奏でるR・シュトラウスの音楽なら――特に「弦楽六重奏」の個所なら、「月光の音楽」なら――と夢見たのがいけなかったか。何ともガザガサとして殺風景で、ルーティン上演での演奏丸出しという水準で、甘い期待は打ち砕かれた。
 此処のオーケストラのルーティン公演でいい演奏に出会ったためしがない。日本に来た時の方が、よほど見事な演奏をする。

 今夜の席は、16列という後ろから3列目の場所。このあたりは席の位置に傾斜があるので、前の大男に視角を邪魔される心配が少ない。
 だが斜め前に、猛烈にうるさい咳を繰り返す、見るからに成金的な肥ったオヤジがいた。独墺の会場では、そういうのに対して露骨に顰蹙するお客があまりいないようで、野放図な「咳男」や「咳女」がえらく多いのである。
 すると私の隣の中年カップルが、うしろからアメを差し出した。咳オヤジは手を振ってそれを謝絶したが、何とそれ以降は咳を全然しなくなったどころか、時に自分のポケットからアメらしきものを取り出し、音もさせずに紙を剥いて口に入れるのであった――。

 シッと制止したり、舌打ちする代わりに、アメを提供してそれとなくたしなめる、というのも、なかなか洒落た方法だ。今度日本でやって見ようかしらん。
 だが基本的には、演奏会場のマナーの点では、ヨーロッパより日本の方が、遥かに上である。これは間違いない。

 終演は、予告されていた時間を大幅に過ぎて、10時。
 これで今回の旅行日程も、明夜の「タンホイザー」プレミエを残すのみ。

コメント

ラルセンはなかなかでしたね。

コンマスは、シュトイデ氏、次席が、日系のへーデンボルク氏。私もザクセン州立でのマレッリ、シュナイダーの名演再現、またエレートの達者な演唱、及びフレミングの絶唱に期待しましたが…。1列前にフレミング・Admirersの会員とかいう愛想のいい初老のノルウェー人がいて、もちろん終演後大喝采。でっかい一眼レフでバシバシフラッシュをたいてました。ディーヴァってすごいもんですね。これを日本でやると係員が虻蜂のごとく飛び回る狂乱の場になるんだろうな、と妙な感慨を抱きつつ席を後にしました。
また、5月のすばらしい新日フィル「ペレアス」でゴローやった、ラルセンがよそよそしい拍手しか貰わなかったのはやや不憫でした。

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